プロローグ
手入れの行き届いた邸宅は100年以上前からここに建っていたらしい。
回りの数多くあった家屋は取り壊されたが、この邸宅だけはこのまま残される。住む人は変わり、時代も出逢う人も変わり、代わる代わる。
二人は門戸の前で一息ついた。
「坂道、きつい」
「ああ。こんな所に住む人はな、歩かないんだよ」
さっきからすれ違う車は誰でも知っている高級車ばかりだった。
「でしょうね。自転車では無理やもん。バス乗れば良かった。あーあ、昔は走れたのにな」
みずみずしい新緑の季節、木漏れる初夏の陽が目にまぶしかった。心地よい風が抜ける。息が整うと寒く感じられるだろう。ここは標高の低い場所ではあるが、街とは違う風と気温に、中腹までも行かずとも山であることを思い出させた。
庭にある大木も樹齢100年をこえるのだろうか。それともどこかで植えられたのだろうか。その根元に立つとより一層、大きな枝の葉が陽を遮り空気がひんやりとしていた。
思い出さずにはいられない陽気なメロディと簡易な歌詞を、知らず口ずさんだ。