プロローグ

429 Words
手入れの行き届いた邸宅は100年以上前からここに建っていたらしい。 回りの数多くあった家屋は取り壊されたが、この邸宅だけはこのまま残される。住む人は変わり、時代も出逢う人も変わり、代わる代わる。 二人は門戸の前で一息ついた。 「坂道、きつい」 「ああ。こんな所に住む人はな、歩かないんだよ」 さっきからすれ違う車は誰でも知っている高級車ばかりだった。 「でしょうね。自転車では無理やもん。バス乗れば良かった。あーあ、昔は走れたのにな」 みずみずしい新緑の季節、木漏れる初夏の陽が目にまぶしかった。心地よい風が抜ける。息が整うと寒く感じられるだろう。ここは標高の低い場所ではあるが、街とは違う風と気温に、中腹までも行かずとも山であることを思い出させた。 庭にある大木も樹齢100年をこえるのだろうか。それともどこかで植えられたのだろうか。その根元に立つとより一層、大きな枝の葉が陽を遮り空気がひんやりとしていた。 思い出さずにはいられない陽気なメロディと簡易な歌詞を、知らず口ずさんだ。
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