(117)②仕置き

3167 Words

「長崎さんっ、落ち着いて」 日々希は首元を狂暴に狙う手を後ろに下がって必死にかわした。 後ろにはエグゼスの黒髪リーダーの宗也と樹里亜の座っているソファとその前にローテーブルがある。そのテーブルに当たる直前で横によけた。 日々希の距離の目算はできているが、長崎は勢いあまってテーブルに脛をごつんと打った。 悶絶している間に部屋の四囲に目をやり逃げ道を探す。 ソファの向こうは大きな格子窓。 ここは一階である。 来た扉から逃げるのが王道だと思われた。 でもそれだと樹里亜を置いていくことになる。 樹里亜を置いてはいけない。 助けて欲しいと誰かに求めればいいのか。 逃げるだけでもだめなのだ。 日々希は状況を把握しよう必死に頭を回転させようとする。 この状況に解決策はあるのだろうか。 エグゼスのソファやらテーブルやらを置くためにスペースを空けたために、片側に会議用のテーブルが窮屈に寄せられていた。 日々希はその中へ、テーブルに手を着き滑り込んだ。 日々希の後を長崎が追う。 追い詰められたふりして、椅子を真ん中に背もたれに両手を置いて、長崎の手の届かない弧の状態に右に左に腰をふりすかし、逃げた。 「クッソ」 汚い悪態が長崎から吐き出され、捕まえきれないもどかしさに顔がゆがむ。 日々希は長崎の忍耐が切れる直前で、その椅子を力任せに長崎に滑らせた。 バランスを崩し隙ができたところを、また別のテーブルに腰を着き、向こう側へ行く。 「あれま、運営委員くん、ピンクのシフォンリボンを捕まえられないのじゃない?」 テーブルにたこ焼きの皿をならべ、ひとつつまみながらひょうひょうとリョウはいう。 エグゼスメンバーたちは高みの見物である。 障害物の間をむやみに追いかけることの馬鹿らしさに気が付いた長崎は、全部の机を隙間がなくなるように力づくで壁へと押し付けた。

Free reading for new users
Scan code to download app
Facebookexpand_more
  • author-avatar
    Writer
  • chap_listContents
  • likeADD