「あれ?藤崎さん、上着はどうしたのかな」 目覚めたときが気持ちのピークであれば、時間を追うごとに気持ちはどんどん下がっている。 ブレザーなしでの通学がこんなに気分が悪いものだとは思わなかった。 光村漸は僕を見ているようで見ていない。涼しい顔をしている。 昨日あんなことがあったのに、だ。 腹が立つ。 あの時、もし光村漸の携帯がバイブしなければ僕は、どうなっていたのか。 そしてもう一人に、あれからずっと怒っている。 「昨日、美術教室かどこかで忘れたようです」 ザビエル山田は教師の例にもれず、生徒が他と違うことを好まない。 ジャケットなしは彼の規範に反していたようだった。とはいえ、ザビエル山田はカズヤの長い前髪を注意することはない。カズヤが生徒に影響力のある生徒だからだと僕は思う。 一方で僕は、気になることを自由に注意しても、ザビエル山田の教師生活を脅かすことのない、雑草のような生徒に過ぎない。 「そうか。忘れ物ならば忘れ物届けにあるかもしれないから見に行くように」 「はい」 僕は返事をするが気が抜けている。 カズヤが視線を寄越すが無視をする。 そう、もう一人、僕が腹を立てている相手。 僕はカズヤに怒っている。 朝からカズヤとは視線を合わせず、いつもの朝のように話しかけられても、僕が口にするのは、ああとか、そう?だけだった。 「……俺になんか怒っているのかよ」 昼ごはんもそんな風に過ごしていたが、昼食後、トシとヒロを残して僕はカズヤに屋上への階段に連れ出された。ここは廊下から死角になっていてひそひそ話をするのに丁度良い場所だった。 「怒ってないと思う方がどうかしているんじゃないの」 「なんでだよ」 「思い当たらないというのかよ」 僕は言い返す。 「昨日の夕方、こなかっただろ。淳史先輩だけ寄越して」 「ああ……」 カズヤは僕が座