理性が、ここから直ちに立ち去れと警告している。 アジールに自分の身体に起こった異変に気がつかれないうちに。 だが、体がまるで自分のものでない、別個の生き物のように動かない。 日々希はいままでどうやって体を動かしていたのかわからなくなる。 自分の周りの世界がぐるりぐるりと回っているような気さえする。 立ち上がってしまえば、円の外へ転がり落ちてしまうではないか。 日々希はこの場で動けないことを正当可する。 アジールはじっと日々希の様子を見ていた。 口が動いている。大丈夫か、とか、横になるか、とかそんなところ。 ぐわんぐわんと耳鳴りがする。 「苦しい、横になりたい……すみません、もう、帰らなければ……」 自分の声のように聞こえなかった。 目を開けていられなくなって日々希は目をぎゅっとつぶった。 おもむろに体を起こしたアジールは、日々希の手をつかみ自分の体に引き寄せた。 日々希の体は力なくぽとりとアジールの胸へ倒れこむ。 顔を押し付けたアジールの胸元からは蒸せかえるような麝香の匂い。 部屋にただよう甘い匂いに混ざり合って、さらにくらくらくる。 嗅覚が敏感になっていた。 捕まれた手もしびれるような快感の電気が走っている。触覚も敏感だった。 日々希は、理性の欠片にすがりついた。 そのまま、和寿でない男の胸に顔をすりつけたくなる衝動と戦おうとする。 性欲と結びついた本能的な衝動と戦うのは、初めからわかっている負け戦に挑むようなものだった。 「……顔を見せよ」 顎を引き上げられた。 日々希の唇がの唇を誘うように開く。 緑の眼が半眼の、日々希の潤んでとろんと熱を帯びた目を覗き込んだ。 緑の眼も日々希の熱を受けてちろりちろりと燃えてはいるが、日々希ほどではなく自制がきいている。 この状況を見極めようとしていた。 日々希の自失ぶりを確認し、