(74)※②アラブB国媚薬

2656 Words

和寿は306号室の扉の横で腕を組み壁に背を預けていた。 日々希が出てくるのを待つつもりである。 扉の前に陣取って座るのはザイードで、彼は文庫本を手にしている。 和寿に視線を一度向けたきり、本に集中し、長丁場を覚悟しているようだった。 ザイードが扉の前にいなければ、何の躊躇もなく入り、ソファにでも座っているつもりであるがザイードはそうさせないようである。 扉を守るほどのものでもないかと思うのだが、絶対に入れさせないというザイードの意思表示が、かえって和寿にざらりと引っかかるものがある。 90分の予定であると日々希は言っていたがものの、いくばくもたたないうちに中の様子が気になった。 「どいてくれ」 ザイードに言うと、面白げにザイードは顔を上げしげしげと和寿を見かえした。 「よっぽど中の様子が気になるようですね。まだ15分しかたっていませんよ。普通にタイマッサージをされていますよ。マッサージ自体はアジールさまはお好きで良く受けられていたと聞いたことがありますし」 頑として動こうとしない。 彼の忠誠は北見と通じるところがあるが、もっと陰険で陰湿な、ねばりつくものを感じる。 アジールが自らサーバントとして選んだ和寿にも日々希にもそのようなところはまったくない。 ザイードの媚をうる卑屈な面がアジールには気に入らないのだということを、ザイードには理解できていない。 これからも理解することはなさそうに思われた。 いったんは和寿はあきらめ、壁を背にする。 中の様子に耳を澄まし、異常なことが起こる様子に気が付けばただちに動けるようにする。 それからどれぐらいたったのか。 うっすらと香る甘い香に気が付いた。 見ると、扉のすきまからうっすらと白い煙が漏れている。 部屋の中で香草がたかれているようである。 嗅いだことのない甘い蜜のような香りである。 少し前

Free reading for new users
Scan code to download app
Facebookexpand_more
  • author-avatar
    Writer
  • chap_listContents
  • likeADD