(11)301号室

4293 Words

三階への階段には緋毛氈が敷かれている。一歩足ごとに緊張感が増していく感じがする。 階段を上り切った廊下にも絨毯は続いている。 二階の扉の列とは全く異なり、三室分ほどあるかと思うぐらい広い間隔で扉がぽつりつりとしかなかった。三〇一号室から三一〇号室のたった10室しかない特別な生徒のための階である。 扉と扉の間隔が大きく、一部屋はゆうに日々希たちの二階の、三部屋分、いや軽く見て五部屋ぐらいの広さはありそうだった。 扉と扉の間には、その間を持たせるためなのか、一抱えもある大きさの、艶やかな有田焼の花瓶に、色とりどりの生花がこんもりと飾られている。近くでみれば、その熟練の職人による鮮やかで細かな筆致のすばらしさに感嘆のため息がでる。 その景色を見たとき、肌がぱつんと張った、笑顔の父と母がなぜか思い浮かぶ。 ふたりが写った海外旅行の写真だったかもしれない。 大和薫英の男性寮は一階は外観は白亜造りの南フランス風で、一階エントランスはアールデコ調の家具を贅沢にしつらえた瀟洒な作りであるが、この三階は高級リゾートホテルに迷い込んだような感覚を呼び起こした。 男子寮の三階は北条や西条、東郷など東西南北の所縁のものや海外からの賓客が滞在する特別の階である。他国の王侯貴族の子息たちもこの階で宿泊することになっているそうである。 靴音は絨毯に吸い込まれていく。これならば廊下を往来する学生たちがうるさくて眠れないということもなさそうだった。もっとも十部屋しかないのでこの扉の前を歩く者たちも少ないわけなのだが。 日々希は301号室と浮き上がらせた金のプレートのついた扉の前にたった。扉の材質は二階と同じマホガニーだが、威嚇する豹が輪を咥えた真鍮製のドアノッカーが付いている。他の扉はとみると、狼、熊、牡鹿、象などそれぞれドアノッカーが付いている。 日々希はしばし豹を眺めた。このような

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