その先を日々希は知らない。 未知なる領域へ踏みこみたいと期待するところもあるが、日々希はいわずにはいられなかった。 「あんた、知りたければいつもこんなことするのかよ?」 「……人による」 「あの金髪の先生ともキスしてただろ」 和寿はちょっと驚いて顔を離した。 両肩の重しは瞬時に蒸発して消えていた。 「ヤル前にまさかもう独占欲?!」 ヤル発言に、日々希は真っ赤になった。 やはりヤルつもりだったらしい。日々希の発言の直前までは。 和寿の優美な眉は眉間に寄せられている。 和寿の手が離れないところからすると、このまま気を取り直して進むかそれとも撤退するかを和寿は決めかねているようだった。 所詮、日々希はついこの前まで野山を駆け回っていたただの餓鬼なのだ。 誰と誰が手をつないでいただけで、大騒ぎであった。 それがキスして、ハグして、しかも男同士でなんやらかんやら?なんて、真面目な顔してできるはずがなかった。 「違うって!あんな濃厚なの見せられて、はい次はあなたの番です、なんていうのは無理なんだ」 和寿はそれを聞いて眉を上げた。少し驚いたようである。 「僕の次は誰とか、分刻みでありそうじゃないか」 日々希は駄目押しに付け加えた。 日々希の肩は解放された。 和寿はそのままひとりでベッドに上がってごろりと仰向けに寝ころんだ。タオル地のガウンの裾が乱れて細い足があらわになってもまったく気にしない。 顔のキレイな男は脛まできれいなんだな、と浮かんだ思考を日々希は頭の中で蹴散らさねばならなかった。 日々希の視線のやり場に困っているのも構わず、和寿は頭の後ろで手を組み、足を組んだ。 「キスやセックスは相手を知るための手段のひとつに過ぎないから、あまり深い意味はないよ。ヤレば、相手は従順になる。持っている全てのものをお返しに与えようとしてくれるだろう?」