北条和寿の秀麗な容姿はどこにいても目をひく。 朝食を食堂で食べるにしても、パンを口に運ぶ姿でさえ、美しい。 彼が目を伏せてカップを口に運ぶと、皆と同じコーヒーカップなのに、特別に淹れたハンドドリップコーヒーであるかのような雰囲気がある。 ただ歩く、ただ話す。それだけのなにげない所作だけをとっても、一度目をとめてしまうと離せなくなるそんな優雅な美しさをもっている。 だけど、よく観察しているとわかるのは、その秀麗な顔に笑みを浮かべることはまれ。 彼の友人たちが、和寿の関心を買おうと話をしているのがわかる。 時折、面倒くさそうな態度であることに、取り巻きたちは気が付かないようだった。 学院生活も二週週間になる。 初日に剛が言ったような、全員があまねくいずれかの四天王の派閥に入っている訳ではなく、金持ちの子息子女であるだけで大和薫英学院に入学し、普通の学生生活を送っているものたちが多いことも日々希にもわかってくる。 そんな学生にも和寿は人気があった。 彼が北条財閥のトップの息子であるという理由ではなくて、彼自身がもつ美しさや尊大さに惹き付けられたものたちである。 それは女だけではなくて男もいる。 一度気になると、剛が信奉する西条弓弦をどこにいても探しだせるように、日々希も北条和寿に吸い寄せられるように見つけ出せてしまう。 野犬のこと、お前が欲しいと言われたこと、そして触れると寝られるらしいこと。 日々希が和寿を気にしてしまう要因はいくつもあった。 ふと和寿は顔を上げる。 日々希はことさらさりげなく視線をそらせる。 そんなことをこの二週間のうちに何度も繰り返している。 その日の夜の九時、205号室の扉が叩かれる。 上級生の別の階にいるはずの北見が日々希の部屋に、和寿の手紙を持ってきていた。 「こんばんは。今夜もこれを頼まれたのですが