東郷と西条はこれ以上の暴力を目の前で行わせないようにするために立ちあがった。 倒れたザイードの方へ動いたのは日々希だけである。 伏せた格好で動けないザイードの体をかばうようにしながら引き起こす。 「これはないよ、アジール!人を蹴ったら駄目だ!B国の王族か何か知らないけど、自分だって人に腹を蹴られたくないだろ?」 日々希はアジールを睨み付けた。 傍観と無関心を決め込んでいた和寿は、日々希の行動に呆気に取られた。 正直、誰が誰を蹴ろうとも自分に影響がない限り和寿にはどうでもいいことだった。 中東の王族など、下々を人を人とも思わないような扱いをすることが日常で、傲慢なところもあるのだな、ぐらいのものである。 日本人として育った自分がもつ人権感覚や権利感覚は、世界万国共通のものではない。 ネットでどんな些細な事柄でも自由な発言が許される国々があると思えば、逐一検閲される国もある。 個人の自由に重きをおくのか、国家の統制安泰に重きをおくのかで、価値観はごろっと変わる。 だから、生まれ育った国文化風習の違うものに、己の感覚を押し付けるのはどうかと常々思っている。 だが、今、己の感覚を絶対のものとして主張し、アジールに正面から立ち向かったのは和寿の大事なコイビト、藤日々希である。 和寿は日々希とアジールの間に立った。 日々希のことになると考えるまえに体が動いてしまう。 これで四天王全員が席をたち、座るアジールに向かうことになる。 「アジール殿下、藤日々希がいうように、ここ日本では王族であれそうでないものであれ平等なのです。お国では許されるのかもしれませんが、ひとを蹴ったり殴ったりの暴力はなりません。昨日も誰かが申し上げておりませんでしたでしょうか。あまりそのようなふるまいをなさいますと、学友として理事に報告しなければならなくなります」 和寿は丁寧にいう。