(67)正直、弾みです

2323 Words

褐色の肌の手が差し出さされていた。 男ながらに手入れの行き届いた指先が、彼がやんごとなき身分の男だと教える。 昨日はアジールは日々希の差し出したその手を握らなかった。今度は自ら手を取れと手のひらが開かれていた。 その男はヒトを支配し従えさせるのが日常なのだろう。その足元にすがったザイードのようにその傲慢な男に心酔し、身も心も捧げたいという者も多いのだろうなと、日々希は思う。 サーバントが実際に何をするものかもわからないが、他人の爪の手入れを自分のもしたことがないのにできないぞとよぎるが、それでも自分でなければ駄目だと望むならばできる限りしてみてもいいかな、なんて思ってしまう。 緑の目がじっと待っていた。 望んだことは全てが叶えられることを疑いもしない王者の眼。 ユラリ、日々希の腕が意識もしないのにその手を取ろうと動こうとする。 「か、彼はなりません。彼は、一般です。アジール殿下!」 南野京子が取り乱して必死に押し止めようとした。彼女が声を荒げる姿を誰もみたことがなかった。 「なら、あなた自身がわたしのサーバントになるか?だが、あなたには無理だろう。今日の茶会でわかる。あなたは女王さまだ。だから、わたしは彼で手を打とうといっている」 ぐっと京子は唇を噛んだ。 彼女には自分が彼に仕えるという選択肢はない。 日々希の手が催眠術にかかったかのようにアジールの手をつかむ前に、差し出された褐色のその手を力強く握ったのは北条和寿である。 挑戦的な目をして、緑の目を撥ね付けた。 「わたしがアジール殿下のサーバントになろう」 アジールは予想もしない事態にその手を放そうとしたが、和寿はがっつりと握って放さない。 「あなたは、人に仕えるというより、わたしと同じだ。人をつかう側だろう?」 「やってみないとわからない。意外と適正があるかもしれない。いや、適正という

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