(68)①有能なサーバント

2055 Words

アジール王子と北条和寿の関係は大和薫英じゅうの注目を集めていた。 アジール王子が手の平を上に返すと、すかさず和寿は用意していたお茶を手渡した。 制服ではなくアラブB国の民族衣装の白服を着続けるアジールが汚れないように、アジール王子が座ろうとすれば用意したハンカチでひとなでする。定期的に、肩のホコリを払うしぐさまでしている。 授業でわからないところがあったのか、眉をひそめたことに気が付けば、何がひっかかったのかを聞きとり調べることまでしている。 アジールが他の学友や先生と話すときは黒子のように後方に控え、普段なら何もせずとも際立つ存在感を完全に消しつつ、会話の内容に気を配る。 「文化祭ってなんのことだ?」 アジールが顔を和寿に向けずに質問をしても、気を悪くした様子もなく聞かれれば簡潔に答えている。 アジールの一挙手一投足、その表情やしぐさに現れるサインを逃さぬように、普段は他人に興味がなさげな、和寿の怜悧なまなざしがアジールに注がれている。 「すっかり奴隷というか、有能な執事をしているな、あの北条和寿が!」 その北条和寿の徹底ぶりに西野剛は驚いた。 二人が完全に通り過ぎた後に、日々希に耳打ちする。 和寿は一瞥も日々希に視線をやることはなかった。全神経がアジールに集中している。 和寿の様子を見た者は学生も先生も一様に驚いたのである。 「ひびきもサーバントになったんだろ?和寿ほどがんばってないんじゃないか!もっと甲斐甲斐しく世話を焼いた方がいいんじゃあないの?」 「全部和寿がやってしまって僕の出るまくがほとんどなくて。彼らが同じクラスであることもあるけれど」 「あのままじゃ、和寿はアジールのものになってしまってもいいのかよ」 日々希はむっつりと黙り込む。 そんなことは言われなくてもわかっている。 日々希の和寿は今や誰が見てもアジールの和寿なのだ

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