その日は東郷進一郎の所属する剣道と、同じ道場を利用する柔道のクラブ見学である。 東郷進一郎は剣道も柔道も説明する。興味深げにアジールはうなづき、技を掛け合う様子に逐一、賞賛の声を上げる。 「現在、我がB国も中東の銃社会に飲み込まれつつあるが、レスリングに似たクシュティを残そうと国をあげて取り組んでいる。そうだな、ザイード?」 アジールは今日初めてザイードを見た。 「は、はいっ」 「おまえはどれぐらいできる?」 「そ、そんなにたいしたことはないです。わたしは武闘系というより文人系ですので」 「帰国したら官僚にでもなるつもりか?」 「そのつもりです。あなたさまが王になる祖国のために、誠心誠意、尽くそうと思っております」 大真面目なザイードに、不快気にアジールは鼻を鳴らし恫喝する。 「わたしは第二王子だ!王位はファザール兄が継ぐ!ここは外国とはいえ発言には気をつけよ!お前のその場だけ甘い口先から滑り出たおべっかが、俺の首を絞めるロープとするつもりなら、いますぐここを出て行け!」 ザイードの浅黒い肌は紙のように真っ白である。 頭を畳みに擦り付けるようにして、軽率な発言を詫び、一行の空気が不穏げにゆれる。 アジールが本国から雲隠れしたのも、ファザール第一王子との確執があったからと連日ネットニュースを騒がしている。アジールのプライベートジェットがどこに向かったのかは、いくつもの国を経由したために、マスコミは掴んでいない。 日本の、大和薫英に留学生としていることは極秘中の極秘事項なのだ。 「クシュティとはどんな格闘技なのですか?」 西条弓弦がアジールに訊く。 西条は空気を読むことはない。張つめていた状況を変えるのが特技であるといえた。 「では見せてやる。ザイード、文系とはいえ基本ぐらいは身体に染みついているだろう?」 立ち上がったアジールは、白服を脱