(101) ⑤※学院祭に熱くなりすぎではないですか。

4009 Words

それは和寿なりの譲歩であり懐柔策だった。 日々希が偶然出会ったジュリアという歌手とその後に連絡をまめに取り合い、外部で会っていた事実は正直なところ、晴天の霹靂であった。 アジール王子のこともあったので、日々希他の男に目をつけられることがあるかもと警戒はしていた。学院内は自分の存在が彼への不要なアプローチの抑制になると安心してしまっていたと思う。 だから、日々希の方からまさか、自分以外へ、男でも女であっても目を向けることがあるなんて、あの時トロピカルカフェで偶然に居合わせることなどしなければ、いまでも頭の片隅によぎりもしなかった。 そこが、北条家に生まれ、さらに人を魅了する生来の美貌をもって生まれた故に、人の気持ちの浮き沈みを慮ることないままに、自分への好意も愛情も、欲しいものも欲しくないものも、十分なほどに与えらえてきた和寿の、和寿らしいところだったのかもしれない。 以前の和寿であるならば、自分をないがしろにして、裏切り、はらわたを煮えくり返らせるほどの怒りを感じさせた当の相手など、逡巡することなく切り捨てるところである。 学校を自主的にやめさせることも暗に働きかけたかもしれない。 そこには罪悪感など皆無である。 だが、今回の相手は藤日々希なのだ。 激情のままに問い詰めたりしてしまうならば。 このまま、彼女の方が楽だし、楽しいし、女だし? 和寿は家のこととか? 父親のこととか? いつまで一緒にいられるかどうかもわからないし、なじられてまでこんなややこしい関係なんて続ける意味もないでしょう? なんて悪びれることもなく言って、簡単に離れていくかもしれないではないか。 将来のことなどわからない。 日々希にそう言ったことがある。 未来は変則的で予測不可能なところがある。 一度に互いにしっかりと握り合ったその手を手放すことは、今の和寿にはできそうに

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