日々希は逃げ出した。 和寿は日々希をわかっていなかった。 距離と時間を空けたとしても、一生わからないのかもしれなかった。 そうであるならば、自分はどうするのか? 自分の気持ちがわからないものだとあきらめるのか。 和寿は、自分の知らない世界で交友を広げ、様々な経験を通して益々磨かれていくのだろう。 二人の間の差が大海原のように広がっていくのを、ただ指をくわえて見ているしかないのか。 それを、そういうものなのだと流せるのか。 そうして過ごしていたある日突然、和寿は気が付いてしまう。 かつて同じ空気を吸い同じことに笑い、泣き、隣に立っていたはずの日々希が、鈍色にくすんでしまった過去の中で同じく鈍色に染まって見えることを。 日々希はまだ学生。 まだ、和寿が振り返ったら互いの体温を感じられるほど近くにいる、現在進行形の今なのだ。 見ること体験すること全てが色鮮やかな今のうちに。 今が古びた過去になってしまう前に、ここで金輪際終わりにする。 別れの耐えがたさに滂沱の涙を流しても、時のながれは無情でありながら同時に慈悲に満ちている。 いずれ忘れてしまえると思うのだ。 日々希は、特待生としてなすべきことに集中する。 特待生であることでさえ、恵まれすぎた立場なのである。 バイトも止める理由がみあたらないのならば続けよう。 そうして平穏で平坦な、あたりさわりのない同じような日常を繰り返すのだ。 そのうちに、和寿を失った気持ちも和らいでいくはずだった。 そしているうちに、誰かとまた付き合うこともあるのかもしれない。 その人とは、激しく心を震わせることはもうないかもしれない。 置いていかれる恐怖もない、穏やかな関係を築けるはず。 平凡な自分には、平凡な人生がお似合いだと思うのだ。 そうは思うのだけれども。 日々希に快刀乱麻を断つように、和寿との関