(25)絶対不可侵な巫女の娘

2574 Words

日々希はおずおずと進み出た。 「いらっしゃい。ピアノが好きなんでしょう?」 いわれるとそうだと思う。 ピアノの音に惹かれてここまで来たのだった。 舞台に上がると、誰が隠れていたかを知って、南野京子は驚いたようだった。 「あなたは、カフェの藤くん。昨日は鬼神のようだった美少年」 その表現にぶはっと日々希は笑える。 「鬼神も美少年も、おかしすぎます。僕は、普通ですから!」 「あら?まだそう思っているの?あれだけの立ち回りをして暴漢の暴力を防いで? 毎週水曜日に女子10名が決まってお茶をムーンバックスでするのは、いつも笑顔でオーダーをとってくれる、藤くんがいるからよ。何人かはあなたのファンなのよ。気がついておられませんでしたか?」 それは初耳である。言われてもだれかピンとこなかった。かしましい女子たちとしてひとくくりに見ていたのかもしれない。 「気がついていませんでした……」 「そうね、あなたが見ていたのは北条和寿ですものね」 傍からみていてそんなに和寿のことを露骨に見ていたのかと思うと、カアッと真っ赤になる。 視線が読まれると恥ずかしいものがある。 「そういう、あなたが見ていたのは西条さんですか」 負けずにいう。 「そう。彼にも、誰にも、ずうっと隠し通すつもりだったのですけど、あの事件が暴いてしまったわ。わたしの恋ごころも、彼の想いも……」 南野京子は椅子の端に寄って、日々希の場所を空けた。 日々希は少し躊躇うが、勧められるまま座る。 鍵盤を前にすると弾きたくなる。指が動くままに弾く。 フランツ・リスト「愛の夢 第3番 変イ長調」 子供の頃に母に仕込まれたのだ。 ピアノの先生の子供が弾けないと恥ずかしいからといって。小学校の頃は特に厳しかった。 目を閉じて、南野京子は聞く。 「まあ驚いた。心に染み入るようだわ。あなたは戦士である

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