(26)王者の登場

2983 Words

和寿は屋上への階段を駆け上がる。 ちょうど、強風と共にヘリポートにヘリが着陸するところである。 降り立つのはトラディショナルな英国スーツが似合う40代の男。 先のとがった黒い革靴はつやつやに磨かれて傷ひとつない。 一度見ると視線を外すのが難しくなるような、目鼻立ちの整った端正な男。 彼の舞台は小さな日本ではなくて世界であると、その自信に満ちた表情と輝きのある双眸と40代を過ぎてもなおしなやかそうな体から自然と滲み出た迫力が見る者を圧倒する。 彼は北条久嗣。 和寿の父親で、かつ学院の4名の理事を束ねる理事長である。 彼にはもう一人、黒スーツのいかにも屈強な男がつき従う。 北条久嗣は和寿に気がつき、その薄い口許に笑みを浮かべた。 ふっと大人の色気が漂うが、その目は笑っていない。 息子に対して向ける目ではない。値踏みする目である。 「出迎えとは気がきくようになったな!ひさしぶりだな、我が息子よ!元気そうだな!」 低く響く声。 人をかしずかせ、思い通りに従わせるのが日常の男。 和寿はヘリで降り立った父親を睨み付けるように見た。 「相変わらず、どこにでもボディーガードをつけているんだな。いい加減学校まで連れてくるな!」 「襲撃事件を起こした学院の手抜き警備など信用できるか」 男とボディーガードは階段に向かう。 「理事長がそんなので学院生が安心して学業に励めるわけがないだろ!」 北条久嗣理事長は和寿の横で足を止めた。 「お前、なかなか言うようになったな。 それに最近は授業も真面目に参加していると聞く。どういう心境の変化だ?」 「学生の本分は学業だろ」 「それもそうだな!」 あははっと豪快に理事長は笑い、階段を降りる。 和寿も同じく階段を降り、食いついていく。 護衛を引き連れる父親は、いつも早足である。 「親父、聞きたいことがある」

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