(94)ダンスデート

3827 Words

カフェは即席のダンスフロアーに様変わりしている。 呼び水として踊り始めたのは、カフェ側が用意したドレスとタキシードのペアの3組。 スローテンポのしっとりしたワルツ。 お客たちは立ち上がり見守っていた。 一通り優雅に踊ると、ダンサーたちは別々にお客を誘う。 目をきらめかせた樹里亜は真っ先にハンサムなタキシードのダンサーに誘われて、選ばれた喜びをにじませ、うっとりとフロアーに出ている。 スターといえども17歳の女の子なのだ。 「樹里亜、踊れるの?」 驚いたのは日々希。こそっと背中に声をかけた。 「まさか!初めてよ!」 横目で日々希にウインク。 彼女は男性のリードに合わせてステップは無茶苦茶ながらも楽しげに踊りはじめた。 足を踏んでもつまずいても気にした様子がない。 そのあたりのフォローは相手側の力量である。 他にも誘い出されてフロアーでちぐはぐに踊る素人も、手習いがあるのか客同士で踊るすまし顔のペアもいる。 日々希が誰かに誘われるというわけでもなくて、ほっとして元のソファに腰を落とした。 てっきり、樹里亜は自分と踊ろうと言い出したのかと思ったのだ。 それだと素人同士、目も当てられないものになりそうで、ひとまず回避できたのだった。 二曲目はもっと激しい曲に変わる。 いつの間にか机に置かれていたチラシは、本格的なレッスンのお誘いである。 適当ながらも楽しく踊り、もっと上手に踊りたくなった人には本格レッスンへ進んでもらおうという、ダンスの導入やそのひそかな発表の場となるのが、帝国ホテルの最上階のトロピカルカフェの夜の部のようであった。 ふたたびスローテンポに変わっている。 何曲も踊り続けていた樹里亜が、息を切らせ頬を上気させて戻ってくる。 ようやく疲れたのかな、と思ったのはつかの間、座ろうともせず樹里亜は日々希の手を取った。 「ごめん!

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