竜崎神社の参道は、日々希の父親が所属する森林組合が、道に張り出した枝や道を塞ぐ障害物を取り除き、足場の悪いところを馴らし、きれいに整備されていた。 既に山南牧場と書かれた赤提灯が紐でつるされ、屋台も組まれ始めていた。 神社に近づくほど人が多くなりにぎわっていく。 海斗と日々希が馬に乗っていても、山南牧場の息子は古くからの名士の家の子なので、参道を走っても問題はないようであった。山南の坊っちゃん、ご苦労さまです、と馬上の海斗に声が掛けられている。 そういえばいたるところにつるされた提灯だけでなく、神社の鳥居の脚にも山南牧場と墨で書かれている。 「お前んとこ、地元の名士なんだったな」 「竜崎神社が伝統ごと大事に守り継がれることで、水源も守られる。村の田畑に水を引くことができるのも、人が生活できるのも、全て水源のお陰、ひいては竜崎神社のお陰なんだ。この地に生きるものは経済発展に血迷って、この命の源を忘れてはならないと親父は言っていたよ」 そう語る海斗の声色はいつもの調子ではない。 そうやってこの地で生きてきた者たちがそうであったように、海斗も親父の後を継いでいくんだなと日々希は思う。なんだか羨ましいような気がした。 神社本殿は紅白の幕が張られ、境内の本殿正面広場は相撲の土俵のような場が縄で仕切られていた。 必ず決勝の勝負はこの場で行われることになっている。 前回の竜神役ははじめからこの場で勝負する。 ここ10年、日々希の父の特等席であった。 恭一郎はいちどもその背に土をつけたことがなかった。 その他の勝負は、3日の間では境内の外でもどこででも可能である。 村中のいたるところが、立会人がいさえすればそこが勝負の場と変わる。 参加者の男はあらかじめ、名前の入った小さな桜の木の札を持っていて、勝負の勝者が相手の持っている札を奪える。 そうやって勝った者