(49)馬上デート

3467 Words

朝、家を出てぐるっと三キロほど走る。 その足で海斗の牧場に行く。 日課の、自分担当のリリーの調子を見るために、基本動作の確認も兼ねて、リリーに乗り一番大きい馬場を走らせる。 若手の調教師もいて、海斗がいないときにアドバイスが飛ぶ。 なるほど、と思うことの連続で体の力みがとれると、乗馬はみるみる上達していく。 ただ、それは囲われた馬場の平坦なところだけの話で、ジャンプしたりする障害物には体がすくんで一度も飛べていなかった。 海斗はというと、彼女のエミを乗せてぐるっとこの辺り一体を、早朝から乗馬デートである。 それが彼らの日課である。 8つの年の差があるが、海斗はエミに対しては背を伸ばし大人びた話し方を心がけているようである。 エミは普段の会合での打ち合わせやパソコンに向かっている時は、随分世慣れたキャリアウーマンを全開なのだが、ひとたび外にでると、見るもの体験するものいちいち反応し、まるで10代の子供のようである。 エミは、都会から海斗を追いかけてきたのだ。 彼女は海斗のことが好きなのだと思う。 仕事ができる大人でありながら可愛い女性というのは、海斗にぴったりだと思う。 海斗の両親も年の差から敬遠するというよりむしろ、若い女性が馬糞に虫が飛びかうド田舎までやって来た、その行動力と積極性に一目置いているようである。 日々希の両親がそうであったように、集落に溶け込み生きるために必要な情報や物を確保していくための行動力と積極性は、限界集落にはなくてはならない要素である。 すでに10日、海斗の自宅の方に宿泊していて、明日から始まる祭りを三日楽しんで帰る予定だそうだ。 いつものコースの散歩を終えると、海斗は日々希の傍にエミを下ろした。 「海斗、障害物を跳んで見せて!」 海斗に言う。 「よしきた!そこから見てろ!」 一人になった海斗は掛け声とともに

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