番外編1、北条久嗣(ひびきを特待生にする)

2666 Words

北条久嗣のスマートフォンに、ピコンと潜水艦のビーコンの音が鳴る。 端正な眉が上がった。 調査会社が送ってきたメッセージに目をやる。 「インターネットの高校入試の受験一覧」 試験を受けた学校名が上がる。 大和薫英もネット試験の環境は整っている。 試験のためだけに田舎からそうなんども出てこれないであろう、由美子の息子のために、彼の高校入学時期に合わせて準備をさせた。 調査会社の調べたリストには、久嗣の思わく通り大和薫英の名前があった。 相手が望むことに対して先手を打ち、自分からそれを進んで選んだと思わせるのは久嗣の得意とするところである。 他人からやらされることと、自分から進んですることでは、同じことをしていても全く結果が違うことも良くあることである。 だから、久嗣は相手の意志を尊重する。 多くの者たちは、久嗣の手のひらの上であることも知らず、久嗣の望む通りに踊っている。 すぐに、久嗣は入試担当に連絡をいれた。 試験の結果を自分のスマートフォンに表示させる。 合格ラインを超えた、まずまずの成績である。 「ド田舎で育てた割りには、いい成績だな」 由美子は頭の良い女だった。彼女を奪った恭一郎も、久嗣や西条を出し抜くだけの知力を持ち合わせていたことを考えると、その息子も当然、あらゆる面に関して一定水準は超えてくると思われた。 久嗣は願書の写真を拡大する。 すっきり整ったバランスのよい綺麗な顔立ち。 口を真一文字に引き、緊張した口許。 証明写真ぐらい強い印象を残したいんだ、という口元に現れた気迫が空回りしているようだった。 恭一郎が周囲に発散していた意志の強さよりも、どこか頼りなげな優しげな雰囲気が写真から伝わってくる。それは争いを好まない母、由美子の影響なのかもしれない。 もう一度電話をする。 「は?特待生での合格通知ですか?」 久嗣の

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