番外編2、山南海斗(日々希との出会篇)

3592 Words

7才のとき、そいつは来た。 細くて不良そうな体つきで、目だけがぎょろっと大きい。 怯えた子猫のようだった。 自分の人生のなかで今までもこれからも、関わりがないであろう、ひ弱なヤツ。 それがそいつの第一印象だった。 「海斗、ご近所に引っ越してきた藤さんの息子さん、同い年なんですって。仲良くしてあげてね!」 母はいう。 それで、そいつが男の子だと知る。 同い年とは思わなかった。ひとつふたつは年下の、さらになぜか女の子と思い込んでいたのだった。 ムラの大人たちは広間で都会から移住してきた若い夫婦の歓迎会という口実で、昼間から酒盛りの饗宴が始まっていた。大人たちは何かにつけて宴会をする人種である。 その子供は大人たちの豪快な笑いや賑やかなおしゃべりに弾き飛ばされ、早々に濡れ縁にすわり、ひとり所在なげに外を見ていた。 このところ海斗の世界の全てである竜崎村という限界ムラはムラをあげてIターンやらUターンを促している。 そうやって都会から若い夫婦を呼び込んでも、海斗が知る限り1年後に住み続けるのは稀である。 親が、学校が、仕事が、などさまざまな理由をつけては姿を消していく。 病院も大型商業施設もないムラは住みにくいのだそうだ。 彼らが必要だと言の葉にするものがここにないとしても、海斗の目にはすべてが過不足なく満ちている。 山や川、海も近く、馬もいる。この春には元気な子供も5頭も生まれた。 鳥や虫や探険スポットやたまに狩にもつれていってもらえるのに、彼らにはその楽しさがわからない。 彼らにも子供たちがいて、ようやく仲良くなったころに別れがくる。 残されるものはいつも寂しい。 この怯えた子猫のような子供もすぐに、何事もなかったかのように、俺らを残して都会へと帰っていくのだろう。 じりじりと照り返す陽光が眩しい夏の盛りで、朝から俺も俺もと被さり鳴くセ

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