校門を抜けると現実世界が広がっていた。 以前ここを通ったときはまだ肌寒さも残る、空気がピンと張った桜の季節。 それが今は緑深い日差しが熱い、突き抜けるような青空の夏になっていた。 ググーッ、ググーッ。 ピコン、ピコン、ピコン、ピピピピピーッ……。 その音とバイブレーションは校門を抜けてすぐに始まった。 鞄の中に鳥でも飼っているのか、と思うほど騒がしい。 タクシーの運転手のミラー越しに寄越す不審感満載の視線に、日々希はおたおたしながら、荷物を詰めた鞄のどこかでブルブルと主張しつづける物を手探りする。 スマートフォンであった。 やっとのことで鞄からひきずり出してからも一向に止む様子はない。 ネットが繋がったことによる停滞していたメールデータや電話の着信お知らせが、一斉に届き出していた。 それと共に日々希の止まっていた過去の時間が日々希の今へと流れだす。 と、どんどん届くメールを見ると、色んな友人や親からのメールに混ざり、海斗、海斗、海斗、と幼馴染からのショートメールが延々と続く。 海斗が一番多いようだった。 4月1日、2日、3日……。 この3日で100件を超えた。 4月も一週間すればメールの着信も落ち着いていく。 ラインは方々から2000件の未読である。 ラインはひとつも全く開ける気持ちにならない。 「海斗には帰るって言っておくか」 海斗からのメールのひとつを開けた。4月半ばぐらいのものである。 生きてたら返信をしてほしいと切々とつづられている。 悲愴感が伝わってくる。他も開けると同じようなものだった。 現代の、SNSでもラインでも24時間繋がっている時代に、いきなり音信不通になれば死んだと思われても仕方がないのかもしれない。 始めに携帯がつながらないとショックを受けてから一度も日々希は携帯に触れることはなかった。 写真も動画も