【第4話】五番目の王(21)事件の翌朝

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パラパラと遠く音がしていた。 日々希は重く深く眠っていたようで、意識が浮かびあがってきてもまだ時間感覚、空間感覚がほわっとしている。 もうしばらくすると、母が日々希を起こしに、朝ご飯に、呼びにくるような気がした。 母のが自分を呼ぶ声はどこか音楽的なひびきがある。 子供心に母は顔も声もきれいだなとずっと思っていた。 大好きな母に自分が構ってもらおうとすると、父が邪魔をして母を独占する。 それは、数ヵ月前まで続いていた日常。子供のころからずっと満たされない母への想い。 ああそうだ。この春から、両親の元をずいぶん離れて寮生活をしていたのだった。 人のざわめく食堂で朝食をとっていたのだった。 自分を起す母はいないのだ。日々希は思いだした。 うっすら目を開けるとカーテンを開いた大きな窓の外は、既に日は高く明るい。 横になるベッドは大きくてふかふかだった。 だから、熟睡していたのか。 たっぷりな睡眠にからだの細胞すべてが生まれかわり作り直された気がした。 日々希はざあっという音が止んだので、今まで誰かがシャワーを利用していることに気がついた。 ルームメイトの西野剛だろうか。 愛嬌があるくせにその実、口はめっぽう悪い、頼りになる友人。 大阪の小さな暴力団の家系らしく、日々希が存在さえも知らない社会の裏側までよく知っているようだった。 本来ならば怖くて近づけないはずなのに、この学院ではいろいろな係累がごったになって存在している。 ふと、西野剛に向かっていた思考をとめる。 205号室にシャワーブースは、ない。 シャワーブースの備え付けられた部屋はこの階ではない。 眠りに再び引きずられそうな頭でぼんやりと思う。軽い違和感。 意志の力を総動員して目を開く。 薄目で見た向こう側には、蔦模様のすかしのはいったアイアンの衝立が見え、さらに応接セットがみえ

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