(20)※熱を吸い取るキス (第3話完)

4173 Words

「大丈夫か……?」 日々希は和寿につかまれ脇に寄せられていた。 襲撃現場には人が集まりはじめ喧騒は収まりそうになかった。 現場確保のテープが警備員によって貼られている。 日々希の呼吸はまだ弾んでいた。 心臓が暴れるのを鎮めることができない。 「顔に血が付いている。ナイフに傷つけられたか」 服には日々希の血でない血も浴びている。 和寿に言われるまで頬を切られたことに気が付かなかった。 日々希の頭が和寿に引き寄せられた。 その意図がわかる前に、その唇を傷に押し付けられ舐められ吸われた。 驚いて突き放そうとするが、頭を押さえる手は緩まない。 「いいから、このままじっとしていろ」 命のやり取りに燃え上がっていた熱が和寿に吸い取られていく。 ようやく興奮が落ち着いていく。 痛いほど鮮やかだった視界が緩んでいく。 頬から唇を離れた。日々希は和寿に覗き込まれた。 和寿の目は複雑な色合いを帯びていた。 焦燥と当惑と、怒り? 「落ち着いてきたか?ひびき、これがもっと深ければ一生顔に傷痕を残したかもしれないんだぞ」 責めるようにいう。さきほどまでていたはずの声がでない。なんと返事をしたらいいのかわからない。 「まだ熱が冷めないか?」 逢魔が時の凶行に、日々希は今更ながら震えが来る。 目を閉じれば、いまも男たちの手にしていた刃のひらめきが見えそうな気がした。 身体が重い。なぜか、羽をもがれた鳥のような感覚。 「それとも、ようやく怖くなったか?どちらでもいいが、ここはうるさすぎる。俺の部屋に行くぞ」 言葉を失った柔道の山田が、空手の東山圭吾が、西川雄治が、二人の王者に道を空ける。 彼らの前を悠然と歩くのは、彼らが懸想する庇護対象者ではなかった。 彼らが一人もなし得なかったことを、この少年はやってのけていた。 柔道が黒帯で、空手が強くて、運動

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