「大丈夫か……?」 日々希は和寿につかまれ脇に寄せられていた。 襲撃現場には人が集まりはじめ喧騒は収まりそうになかった。 現場確保のテープが警備員によって貼られている。 日々希の呼吸はまだ弾んでいた。 心臓が暴れるのを鎮めることができない。 「顔に血が付いている。ナイフに傷つけられたか」 服には日々希の血でない血も浴びている。 和寿に言われるまで頬を切られたことに気が付かなかった。 日々希の頭が和寿に引き寄せられた。 その意図がわかる前に、その唇を傷に押し付けられ舐められ吸われた。 驚いて突き放そうとするが、頭を押さえる手は緩まない。 「いいから、このままじっとしていろ」 命のやり取りに燃え上がっていた熱が和寿に吸い取られていく。 ようやく興奮が落ち着いていく。 痛いほど鮮やかだった視界が緩んでいく。 頬から唇を離れた。日々希は和寿に覗き込まれた。 和寿の目は複雑な色合いを帯びていた。 焦燥と当惑と、怒り? 「落ち着いてきたか?ひびき、これがもっと深ければ一生顔に傷痕を残したかもしれないんだぞ」 責めるようにいう。さきほどまでていたはずの声がでない。なんと返事をしたらいいのかわからない。 「まだ熱が冷めないか?」 逢魔が時の凶行に、日々希は今更ながら震えが来る。 目を閉じれば、いまも男たちの手にしていた刃のひらめきが見えそうな気がした。 身体が重い。なぜか、羽をもがれた鳥のような感覚。 「それとも、ようやく怖くなったか?どちらでもいいが、ここはうるさすぎる。俺の部屋に行くぞ」 言葉を失った柔道の山田が、空手の東山圭吾が、西川雄治が、二人の王者に道を空ける。 彼らの前を悠然と歩くのは、彼らが懸想する庇護対象者ではなかった。 彼らが一人もなし得なかったことを、この少年はやってのけていた。 柔道が黒帯で、空手が強くて、運動