(8)②α波でてますか?

3681 Words

受け身が続く。 日々希はすぐにコツをつかんで、背中でパシンと小気味く音をさせながら受け身をとっていた。 机の勉強と違って体を使えば体の隅々にまでエネルギーが巡りだす感じがする。 とたんに汗が吹き出すしてきた。 痛みも疲労感も爽快で、好きな時間である。 百回目を数えて一斉に休憩に入る。 日々希も含めてほとんどの一年生は汗だくで立ち上がれない。 「案外上手なんだな!その似合わない道着はカモフラージュだったのか?」 その場で粗く息を継いでいた時に日々希は上から声をかけられた。 日々希の横にはいつの間にか和寿がいた。 ひたいに汗が光り頬が上気し、息は上がっているが日々希ほどでもない。 日々希はずっと隣は剛だと思っていたので驚いた。 「なんで隣にいるんだよ!」 日々希の驚きをよそに和寿はさらっと答えた。 「こうでもしないと逃げるだろ?お前のルームメートは昼も夜も一緒のほうが息がつまるだろ、喜んで変わってくれたよ。ひびきは柔道の経験はあるの?それか空手とかの格闘技とか?」 和寿から逃げるという言葉をきたのは二回目なことに気が付いた。 夜眠れず目にクマをつくる高校生の苦悩は、日々希には理解できないが、和寿には逃げたくなるようなことがあるのかもしれないと思う。 そう思うとぞんざいに扱うのも気が引けた。 和寿が横暴で失礼であるとはいえ、何度も夜の呼び出しを断り続けているひけめもある。 和寿は立ち上がれない日々希の隣に腰を落ち着けた。 先生の掛け声で黒帯が集められ、乱取りをし始めたのに目をやっている。 「柔道はなんちゃっての中学授業だけ。空手や格闘技の道場は田舎にはひとつもないよ。和寿はいかなくていいのかよ?黒帯だろ?」 和寿は肩をすくめた。 「あんな汗だくで汗臭い、むさ苦しい男たちとつかみ合うようなことはごめんだ」 先生は初心者組に混ざる和寿に

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