(13)大人数注目恐怖症②

2871 Words

夜、日々希は301号室を訪れる。 お前が呼びにくるのなら大浴場に入ってやるとのことなので、風呂としては早めではあるが、夕食を終えると和寿を誘いにいくことにしている。 301号室の扉の前に立つ。目線の高さに扉から突き出したアイアン製の豹の顔が、最近は怒っているのではなくて笑っているように思えるのが不思議である。 結局このドアノッカーを使うことはない。 「もう少し待て」 中から返事があり、待てという割には間を開けず、自分用のシャンプーを手にした北条和寿が出てきた。制服ではなくグレーのパーカーのという、寮を出ない時の寛いだ格好である。 和寿には服装に細かな段階があるようで、制服か、ジャージーかジーパンか、ぐらいの着替えしかない日々希とはドレスコードの感覚が違っていることに、頻繁に会うようになって日々希は気が付いた。 和寿は、日々希の服装に片眉をあげることはあっても口出しをすることはない。 彼は基本他人に興味がないようで、他人がどうみられようがどうでもいいその他の事項に一緒くたにされているようである。さらにいうと、そのどうでもいい他人から自分がどうみられているのかも全く関心がなさそうである。 「まったく毎日毎日呼びに来るなんて、風呂好きだな」 といいつつ、一緒に行く。日々希の誘いを和寿が断ることはない。 あらかじめ日々希との風呂時間を確保し、家庭教師のレッスン時間も調整しているようである。 最近はよく眠れているのか、和寿の目元の翳りはなくなり、もともとの秀麗な顔立ちはさらに際立っている。 あれから和寿が望んでいるといった淫靡な関係には進んでいない。本気で日々希をどうこうするつもりはなかったのではないかと、今では確信している。正直ほっとする自分がいる。 日々希といれば副交感神経が活発になってよく眠れるのは事実のようである。 和寿が望むのは熟睡で、日々希が風

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