(37)例の子

4430 Words

「これ、持っていってくれると本当にうれしいんだけど。職員室にいくのでしょ?それに金沢くんが持っていくと先生も喜ぶだろうし!」 頭ばかり良いがとりわけ面白いことを言うわけでもない金沢太一に対して、男子も女子もやることはあまり変わらない。 そういって先生に頼まれた仕事を太一に押し付けたのはクラスの女子である。 「金沢くん、優しい!よろしくね」と同級生たちは残酷である。 教室に50センチ積み上げられていた全員分の課題ノートを太一は一人で持っていくことになった。 1回で持っていくには多すぎるとは思うが、何度も往復するのも嫌だったので、太一は意地でも1回で済まそうと思う。 「わあ、力持ちだなあ!」 といいつつ、誰も助けようとしない。 いつもノートを借りにくるヤツも、太一にぶつからないように道をあけるだけ。 大和薫英の生徒とはそういうやつらである。 人を利用することが当然であると育てられた、何一つ苦労をしたことがない金持ちの子息子女たち。 サラリーマン両親の元に育った太一とは違うのだ。 だから、金沢太一は何も期待しない。 彼らの助けや楽しい学院生活を期待するだけ無駄だから。 そう思うと悔しくともなんともないのだ。 だが、気持ちとは裏腹に、部屋をでていくらもいかないうちに、ずしりとかかる物理的な重さに腕や指が悲鳴をあげ始めた。 職員室までは5分ほどの距離である。落としたらみっともないな、と思ったときに、両腕に抱えた重さが消え失せた。 しまった!落とした! 盛大な音をさせて廊下にぶちまけたりすれば、クラスのみんなを喜ばせるだけである。 そして拾い集めることの助けは期待できない。 だが、地面に落ちる音はしないかった。 「僕も持つよ?重いね」 横から静かな声がかかった。顎下まであった半分ほどのノートが声をかけた学生の腕の中にあった。 限がに耐えなが

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