(92)①和寿の事情

2569 Words

和寿の秋は忙しい。 学院中が浮き立ちざわついている学院祭などどうでもよかったが、先日、父の久嗣に強引に呼びつけられたときに重大なことが判明してしまう。 父の北条久嗣は、重要な商談の場には連れていくことはないが、商談とは直接関係しない、異業種が混ざった交流の場、誰かの誕生日パーティー、何かの新作発表の場、映画のクランクインの打ち上げなど、息子の和寿を同行させることがある。 30代ぐらいの新進気鋭のやり手といわれるものが招待されている時にはなおさら、連れていくことにしている。 それは久嗣なりの、息子の将来を思ってのことであり、それは和寿に限らず彼以外の息子も連れていく場合もある。 無理やり乗せられたプライベートジェットで、あちこちで兄弟を拾いながら、海を越えた先の大陸の小国の、王族主催のパーティーへということもよくある話である。 和寿は去年までは中学生で、同年代の少年のようながさつに騒いだりすることなどない大人びた雰囲気ではあったが、頬のふっくらした子供であった。 それが、一年の間にぐっと背が伸び、その何不自由のない生活環境と偉大な父、約束された将来を持ち、そして本来の性格のせいか、自分はお前たちとは違う、しょうもないことなど話かける的な、傲慢な雰囲気さえ漂わせるようになっていた。 和寿を誰かわからずに大人の会話に手持無沙汰などこかの良家の娘がうっかり話しかけてしまったりすると、はじめは、和寿も表面的にこやかに相手をしてくれるのだが、和寿から話を盛り上げることはない。 手ごたえのない会話に次第に娘たちのお愛想も尽きてしまう。 その瞬間に和寿は離れていく。 和寿の整った顔立ちそつのなさに惹かれた者たちが、つい引きとどめたり追いかけようとすれば和寿の表情は変わる。 顔立ちが整っているために余計に冷たく突き放すような、拒絶の無言の圧力を相手に感じさせることも多

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