(42)②美しい人

2624 Words

「ゆ、許してくれ……。悪かった!傷つけるつもりはなかったんだ。悪ふざけが過ぎた。金沢太一にはもう構わない!だから、許してくれ!!」 岡村は尻もちをついて起き上がれないまま、恐怖に顔をゆがめ、別人のように藤日々希に許しを乞いていた。 不意に、ナイフを掴む日々希の手首が後ろから掴まれた。 日々希は極めて冷静に、握ったナイフを手の中で転がして、刃を下に握り直す。 その刃で後ろから自分を捕まえる男の腿に突き立てようとする。 「おい、ひびき!目を覚ませ!俺だ、和寿だ!」 手首を掴んで日々希の動きを止めたのは和寿である。 和寿は慌てていい、手首を満身の力で握った。 そうしなければ、問答無益に腿を刺されていただろう。 「あ……、和寿?」 どこか別の世界にいるのか、焦点が揺れる。 息が荒く乱れている。 「こいつら、とっくに戦意喪失しているぞ?どこまで痛め付けたら気が済むんだ?」 「え……」 日々希のナイフを握る手が緩んだ。するりと滑り落ちたナイフが地面に突き刺さった。 ふうっと和寿はため息をつき、手首を掴んでいた力をぬき、己の緊張をほどいた。腕を回して後ろから抱き締めた。 その手で日々希の顔を斜め後ろに、背後の自分の方へ向ける。 「我を忘れるほど、興奮しているのか?」 和寿の長いまつげが伏せられた。顔を被せ、日々希の唇を塞ぐ。 荒い息がおさまらない日々希が酸素を求めて喘ぐのにも構わず、長いキスをする。 荒く弾む日々希の胸と肩が、だんだんと鎮まっていく。 シャツが開かれ、晒されている日々希の胸が汗で艶めいていた。 北条和寿は絶妙のタイミングで現れた。 誰かが助けを呼びに連絡をしてくれたのだと思う。目付の北見が聞き、北条和寿へ伝えたのかもしれなかった。 だがそんなことはどうでもよかった。 太一は、二人はなんて美しいのだろうと思った。 二人の間

Free reading for new users
Scan code to download app
Facebookexpand_more
  • author-avatar
    Writer
  • chap_listContents
  • likeADD