西条弓弦の人生はいつ死んでもおかしくないことの連続であった。 父が西条組という、関西極道の一大勢力のトップの息子という立場から、幼い頃から恨みを晴らす捌け口に狙われたり、父の譲歩を引き出すために誘拐されかけたりしている。 家でも、道端でも、学校でもそれは同じで彼には心休まるところはなかった。 中学校からこの学院にはいると、ここは学校そのものが要塞のように堅牢に守られていた。 高塀にぐるりと囲まれ、塀を越えるものにはセンサーが反応する。 訓練を積んだ警備員が要所に配置され、出入りの業者やスタッフは身元を逐一徹底的に調査される。 宅配物などの外部からの持ち込まれるものは、金属探知機やエックス線にかけられ、危険なものが持ち込まれることを水際で防いでいる。 大和薫英学院は西条弓弦にとって生まれてはじめての安全で安心できる場所であった。 だがそれも、完璧ではないことは承知している。 身元を保証されたスタッフを後から買収したり、弱みを握ったりして、この堅牢な安全地帯の内部にねずみをえることだってできる。 どんな厳重な警備でもすり抜ける裏技はあるのだ。 なので、日々希の突然の警告を受けたとき、体は瞬時に命の危機に対して動いた。 グレーパーカーの男の手にナイフを見てとると、背のある椅子をとっさに盾にする。 男がナイフを何度も突き立てようとするが、西条は器用に椅子を動かして邪魔をする。 西条に届かせることはできない。グレーの男は若くて勢いがあるだけで、プロの動きではなかった。 奇襲をかけて一撃で西条をヤルつもりだったが、それをすかされて激昂している。 西条は椅子でナイフを叩き落とすタイミングを計った。 その時、西条の視界の端でギラリと金属がきらめいた。 もうひとり、手にナイフを持つ者がいる。黒いパーカーの男。 突然始まった西条への襲撃と応戦に、悲鳴を上げ