手首を後ろにひねられて抵抗もできずに日々希は振り向かされた。 トイレの入り口壁に背中をに押し付けられた。そこはカフェスペースからは衝立のような壁がある。回り込んでトイレに行く形である。厨房ともつながっているが、背の高い衝立で仕切られ、厨房からは死角になっていた。 日々希の手首をつかんでいるのは柔道の山田でも東山圭吾でもなかった。 総合クラス1組の和寿や西条と同じクラスの西川雄治である。 西条グループの貿易会社のひとつの社長の息子だったか。スポーツも成績もよい、目立つ男だった。 いろんなところで和寿や西条と肩を並べる秀才である。 普段は西条とつるんでいることが多かった。カフェでは西条と別のテーブルを利用する常連客の一人である。 「何ですか、離してください」 というと、すぐに日々希の手首を放した。 「ごめん」 素直に西川は謝った。 トイレに押し込まれる訳でもなさそうで、ほっとしたのもつかのま、改めて指と指の間に差し込む握り方でがっつりと握りこまれ、壁に押し付けられた。 「君を思いながら選んだんだ。身に着けていると心が浮き立つような、楽しくなるような時計だろう?細くて白い君の手首にいつも身つけて欲しい……」 西川雄治は唇を手首の内側に押し付けた。 「うひゃあっ」 思わぬところへの突然のキスに変な声がでる。手を引き抜こうにも引き抜けない。 「西川さんだったのですね!あの高価すぎるプレゼントは受け取れません!僕にはいただく理由がありませんから。放してもらえませんか?」 日々希は真っ赤である。西川の強い身体と壁に挟まれて逃げられない。 こんなに接近したのは和寿以外にいない。 日々希は入学してから少しだけ伸びたとはいえ日々希よりも頭ひとつ背が高い。 西川雄治は少し上から慈愛の宿る、愛しい者をみる目でいう。 「あれはもらっておいて。僕の君を想う気持