(17)②引き返せる最終ポイント

2216 Words

フランク・ミュラーの時計が届いてから一週間後の水曜日である。 和寿の午後は総合クラス合同の弓道の授業である。 和寿は取巻きたちが遠巻きにするほど、大荒れに荒れていた。 普段は二分の一以上の確率でド真中をぶち抜く腕前なのだが、乱れた心そのままに授業中ひとつも当たらなかったのである。 授業が終わると日々希は速攻で着替えをすませた。日々希は和寿にあきらかに避けていることをわからせてしまうにも構わず、和寿に何か言われる前に飛び出したのだった。 この一週間、合同になる授業ではずっとこのようなことを繰り返している。 和寿も日々希が避けていることに気が付いている。 日々希は逃げても逃げても、気分がすっきりしなかった。 日々希には北条和寿と釣り合っていないと東山圭吾に言われたことが、自分で驚いてしまうほど長く尾をひいていたのである。 社会経済活動について疎い日々希であったが、新聞やネットニュースをじっくりよめば、北条グループが散らばっていることに気が付く。製造、船舶、鉄道、航空、半導体。その細かな網の目のように張り巡らされた北条経済圏は巨大だった。その北条経済網の頂点は北条家が握っているという。 夜は、日々希に二日と空けず、安眠のおまじないと称してキスを要求する相手は北条家の息子である。 和寿から好きとも付き合ってくれともなんともいわれていなかった。 誰かに構われて求められる感覚が、快感だっただけなのではないか? 求められる快感を与えてくれるのならば、相手は柔道の山田でも、空手の東山圭吾でも、時計の信奉者でも誰でもよいのではないか? いや、今名前を上げた日々希の幻想を追いかけて好意を寄せてくる男たちじゃなくて、女子と一般的な恋愛に進むのでいいのではないか? 和寿に魅入られるぞくぞくする感覚の記憶を、日々希はわかりやすい名前をつけ、くだらないものになり下げて、そ

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