「これはフランク・ミュラーだな」 蓋が開かれた真四角な箱の中からでてきたものは鮮やかな文字盤が踊る、遊び心溢れた文字盤のきらきら光る時計である。 一見してもわかるいかにも高級な時計である。 それはベッドの上に置かれている。 西野剛は日々希のベッドに腰掛け、日々希は時計の正面、ベッドの上で正座である。 一人で解梱するのもためらわれて、剛に立ち会ってもらっていた。 「なんか、やたら高そうなんだけど」 「このラインだと100万円するが、文字盤にサファイヤが使われているから値段はもっと上がる」 「100万以上!?」 「見積ればざっと300万ぐらいじゃないか?」 剛は手に取り透かして見ている。裏側はケースの中に納められたちいさな機械が昆虫の内臓がみえたらこのようなものかもしれないと思わせる、小刻みで規則的に動いている。スケルトン仕様である。 がっつりつかんだら指紋がついてしまう!なんて思ってしまうところはそのような高価なものを触れたことがない貧乏人のさがである。 小包の中には送り主を特定できるカード類も入っていなかった。 表書きの、「君の信奉者」しかない。 「こんなの、送り付けられてきても困る。むしろ気持ち悪い。どうしよう、送り返そうにも誰かわからないよ」 剛は鼻で笑い、ケースの中にしまった。取り上げたときと同様に乱雑に。 「送り返せないのなら、細かいこと気にせずありがたくもらっておいたらいいだろ。つくすことで満足する人がいるからな。つくすは言い換えればみつぐになるけどな」 「みつがれても困る」 「大和薫英にくるやつはとんでもないぐらいのカネ持ち息子もごろごろしている。300万なんてちょっと頑張ったお小遣い、ぐらいの感覚かもしれないぜ」 そういつつ剛は少し考えた。 「ただ、一般的な市場経済原理で言えば、300万の価値を受けとるならば、相応の対価