日々希は18時にバイトが終わる。 エプロンを脱ぎ、仕事モードから切り替えるとその足で食堂に行く。 夕食は一人で頂くことも多い。女子寮の食堂は利用できないが、男子寮と教師寮の食堂のいずれでも利用できた。日々希はもっぱら男子寮の食堂専門である。 日々希は急ぎ足で校舎の間を抜ける。 クラブ活動が終了した時間帯と重なり、運動部の荷物を抱えた生徒とすれ違う。 「藤くん、待って!」 日々希は呼ばれて立ち止まる。 ムーンバックスカフェで忘れ物でもしたかと思ったのだ。 呼び止めたのは三年の上級生。 週1回くる、空手部の常連のひとりである。 「いつも美味しいコーヒーと素敵な笑顔をありがとう」 「いえ、仕事ですから」 カフェの店内で話しかけられるのは嬉しいのに、仕事外だと面倒だと感じてしまう。 「食堂までいくのなら送るよ。藤くん、たいして知らない人から話しかけられたりしても煩わしくて嫌でしょう。僕は空手をしていて強いし、男避けになるから」 とかなんとか。 既にあなたが煩わしいのですけど、と思いながらも行くのは食堂である。 方向が同じなので呼び止めた三年と一緒に足早に歩く。 三年は自己紹介を押し付けてくる。 「僕は東山圭吾だ。そう、東郷のグループ関連の。カフェの仕事は楽しい?君がいない週末は同じカフェなのに味けなく感じるんだ」 「はあそうですか……」 一方的に延々と話しかけれられながら、日々希たちはようやく食堂についた。 「夜をこれから一人で食べるつもりなら、僕も一人だし一緒に食べる?」 と彼。日々希は一人のつもりだったが、振りきるために、必死で知り合いを探す。 こういうときに限って、すでに人でいっぱいになっているざわつく食堂で知り合いの顔を探せない。 「あそこ、空いているよ」 日々希は断るタイミングを逸してしまった。 当たり障りのない会話が続