女の子の表情はくるくる変わってみていて飽きないしかわいいな。 というのが日々希の樹里亜の第一印象である。 気持の切り替えが早くて、興味のあぶくがぽんぽんと投げられていく。 打ち返されなくても構わないようである。 そう夢中になって話している姿から、あのしっとりと歌い上げる歌姫の面影は見当たらない。 自由のない芸能事務所への不満。 遊びたい盛りの17歳なのに、ひたすら缶詰にされて歌を歌い、曲を書きまくっていること。 今の状態は本当にしたいこととは少し離れているということ。 ライフとワークのバランスを整えたいとかなんとか。 まるで、ムーンバックスカフェで来るお客の女子たちの姦しいおしゃべりと変わりがない。 もっとも、今は彼女の話をにこにこと聞いているのは日々希ではあったが。 アーケードのあるレトロな商店街は、ぶらり歩きに最適だった。 樹里亜は汗をおもいっきりかいた上に、タオルで擦ったために化粧はすっかり落ちてしまっていたし、トレードマークのふわふわの髪はぎゅっと縛ったポニーテールで、物おじすることもなく元気に顔をさらす。 安っぽい外国製のサンダルを手に取って、ヒールの靴と履き替えた。 そのどこが違うのかわからない形と素材のサンダルを、手に取りためつすがめつする姿は、世の男どもの幻想を打ち砕く生活感がだたよい、くすりと笑えるのである。 彼女は特別なアーティストではなかった。 ミステリアスなお嬢様の欠片など一つもない。 ポスターやメディアやネットの別世界の偶像ではなくて、ただの生身の女の子であった。 誰も樹里亜だと気が付かない。 樹里亜が買い物をしている合間に剛に連絡をすると、剛はケータイの向こうから、JEUGIAでの騒動に日々希が巻き込まれたのではないかと心配していた。 サイン会の主役のジュリアの時間はオーバーしていたとはいえ、一時間近く並ん