(83)兄と弟。和寿と日々希。

2920 Words

数日後、アジールはファザール王子と合流し、そのまま二人の王子は帰国をすることになる。 「帰っていったな」 そうぼそりと呟いたのは西条弓弦である。 東郷進一郎の部屋には大きなテレビがあって、普段はつけることはないのだが、その日は西条弓弦が部屋に押し込むように入ってきて、自分の部屋のようにどっかとソファに腰を落ちつけると、おもむろにテレビをつけたのだった。 画面いっぱいにファザール王子の笑顔が大写しとなる。 やわらかな純白の絹の深衣(しんい)に身を包んでいる。その後ろにはファザールと同様に頭にスカーフを巻き、正装に身を包んだアジールが続く。 アジールは報道陣がカメラを構えフラッシュがたかれても、兄と対照的に愛想なしである。 そのニュースを見ての、西条の呟きであった。 アラブ某B国の第一王子が帰国するニュースで、政治家や経済界の重要人物と交遊を深め都内ホテルや料亭を借りきっての会食などをして、3日間外交官として、ビジネスマンとして、ただの笑顔の美男子のセレブではない辣腕振りを見せたそうである。 一方第二王子のアジールのことにはリポーターは一切触れていない。 確かな情報が入手できなかったのだろう。 来たとき以上に、一般人のにわかファザール王子ファンを巻き込んでの、大騒ぎの成田空港からの帰国だった。 ファザール王子が滞在した3日間の実際の過ごし方は、せっかく来日したので雷門やスカイツリーに登りたいとか、大型レジャー施設に行きたいとか言い出して、白と鷹の刺繍の民族衣装からジーンズにシャツといった庶民の服に着替えて、昼間はお忍び観光をしたのだった。 アジールも一緒で大和薫英の学友たち、不動のメンバーの東郷進一郎、西条弓弦、西川雄治、南野京子、北条和寿、北見、藤日々希が同行を許された。 それに、スーツを脱いだ一様に恰幅のよいお抱えのSPたちが付かず離れず随伴する

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