欲しいものを簡単に与えて飽きるのを待つという消極的方法も、女の子と付き合うのも、東郷寮長に付き合っている宣言をしてもらうのも、どれもスッキリしなかった。 日々希はカフェに戻る。 既に習慣になっている和寿のテーブルを見ると、女子生徒が近寄っていくところだった。 不審な感じはするが、危険とも思えない。 家庭教師との勉強時間は続いている。 女子生徒の手には何か紙が握られていた。 和寿に声をかける、と日々希が思った時に、別のテーブルに座っていた北見が立ちあがり、女子生徒を体で制した。 北見の顔は厳しい。 一週間前に襲撃事件が起こったばかりである。 それに気がついた和寿が問題ないといっているようだった。 彼女はここからでもわかるほどほど真っ赤になって、和寿にその手に持った白いなにかを押し付ける。 そして一目散に、日々希のすぐ横を顔伏せながら走り抜けていったのだった。 感極まって涙も浮かんでいる。 見ている方が恥ずかしくなるほど、初々しくてかわいいと日々希は思う。 それが自分と関係のないことであれば。 ふわっと鼻孔をくすぐるような花の香りのシャンプーの残り香。 だけど相手は和寿なのだ。 和寿のことが好きなのだ。彼女は和寿にラブレターを渡した。 思い焦がれてどうしようもなくなって、見ているだけでは足りなくなって、思いのたけを手紙に書き記す。 書いたのはいいのだけど、今度は渡そうか渡すまいか散々悩んだ末に、砕け散ってもいいから自分の気持ちを伝えようと、彼女は勇気を振り絞り手紙を渡したんだ、と思う。 黒いインクの染みが水に落ちるとさっとひろがるように日々希は理解した。 女子生徒の背中を追っていた日々希は、日意志の力を総動員して、習慣的に見てしまう和寿の方を向かないように頑張った。 なぜなら、自分は酷い顔をしているような気がしたのだった。 和寿はき