(41)南野家の素質

3749 Words

情報室で和寿が投資レースの途中から、途中から自分以外の者に向けて話していることに日々希は気が付いた。 和寿の視線の先には、眼鏡の金沢太一がいる。 背中を丸めて、いつにも増して根暗で陰気そうな雰囲気である。 和寿がチャットし始めたとき、ようやく日々希は眼鏡の太一がぷっくりラビットだとわかった。 キーボードの音が画面の文字が現れ出るタイミングと同じだったからだ。 ぷっくりラビットとは確かに言われてみれば、太一にこれ以上ぴったりくるものはなさそうに思えた。 和寿の北極星もそのままである。 大洋や砂漠を旅する者たちが基準にする一番星。 また輝く星のなかでひときわ眩しく輝いている。 和寿は日々希が画面をみていても構わない。 金沢太一は4000万円の投資を一蹴した。 彼が誰かを求めて振られることなど日々希に想像できなかった。 自分はなし崩しに和寿に求められて、友人よりも深い関係になってしまった。 裏投資レースでダントツの一位を獲得し、かつ、将来、自分の能力生かせそうな就職が確実に決まりそうな北条家の和寿の誘いを断れる金沢太一を、日々希はすごいヤツだと思う。 親に負担を掛けずお金の心配なく大学まで進学し、就職も悩みなしという条件なら、自分なら、即乗ってしまう。断る理由がない。和寿は自分の才能に惚れているのならば、誇らしいではないか? それなのにどうして泣くのだろう? 泣くぐらいなら、断らなければいいのではないか。 同時に二つの派閥にはいれず東郷派を太一が選んでいるのなら、それで十分ではないか? それとも、本当は北条派の入りたいのだろうか? 「え……?」 太一は顔を上げた。 涙でぐちょぐちょになった顔が日々希を見た。 「北条派に入りたかったわけでもなくて……いやそういうことも願望として抱いていたけれども……」 太一が言ったので、日々希は心の声を

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