その4、②刑事藤堂仁志、 京都の休日

2549 Words

その時事件がおこる。 木屋町の繁華街の景色に溶け込んだコンビニから、お昼下がりの気だるい陽気を切り裂くように、どけえと叫び声びながら覆面男が転がりでた。 それはちょうど若者二人がコンビニの扉前を歩いて差し掛かったところで、出会い頭の事故のようなものだった。 覆面男は出口を塞ぐ形であった若者に、平凡な方に派手にぶつかった。 覆面男と若者は豪快に転んだ。 覆面の他にも残暑もきついのに真っ赤なジャンバーをきている。 コンビニ強盗だと思う前に、きびすを返して反転し藤堂は身構えた。 常日頃、こういうこともあろうかと鍛えている屈強な体である。 強盗はすぐに腕を大きく広げて行く手を立ちはだかる藤堂に気がついた。 片手に両刃のサバイバルナイフ。反対の手にはスーパーの袋に入れた札束をしっかりと持っていた。 コンビニ強盗はすぐに理解した。 「まさかお前サツか!くそっ待ち構えているなんて」 覆面は一緒に転んでいる若者を背後から羽交い締め、首筋にナイフを突きつけた。 そのまま強引に引き上げて藤堂への盾にする。 「おまえ!これ以上近づくと、コイツがどうなっても知らんぞ!」 興奮して男は叫ぶ。 ナイフを突きつけられた若者は紙のように蒼白だった。状況が理解できないようで、目を大きく見開いて、刃物と友人の顔をいったりきたりする。 覆面のなすがままにじりじりと後ろに引きずられていく。 藤堂には覆面男の逃走ルートが浮かんだ。 細い通りに入り、せり出すように並ぶビルの中へ紛れて覆面とジャンバーを脱ぎ捨てて、別人のようになって平然と逃げるつもりだ。 警察が探すのは覆面にド派手なジャンパーである。格好の隠蓑であろう。 「その子を放すんだ。強盗に殺人を加えたいのか?」 低い声で藤堂は声をかけた。覆面はびくりと飛び上がった。 ナイフを持つ手がふるえ、若者の首筋に刃先が触れる

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