二学期が始まり数週間。 ようやく夏休み気分が抜けてきたこの頃である。 時おり涼しい風が抜けるとはいえ、残暑は厳しく、ムーンバックスカフェのエアコンのない外の席は人もまばらである。 辞めるタイミングを逸していて、日々希はカフェバイトを続けている。 そして週に5日も入ると、気配りも動きもスムーズにできるようになり、社内コーヒーソムリエの資格を取らないかと、髭のオーナーに言われて勉強を始めている。 コーヒーの世界は知れば知るほど面白い。 奥深いコーヒーの世界を垣間見せて、もう少しコーヒーの勉強がてらバイトも続けようかと思わせる、オーナーの策略にすっぽりとはまった形である。 木陰のテラス席にはいつの間にか初めての客が席に座っていた。 ゆったとした麻織の白いシャツに白いパンツ。 襟袖には、手の込んだ唐草文様らしき刺繍が飾る。 一見して大和薫英の学生ではない出立である。 学生でなければ教職員か、食堂や購買スタッフかではあるが、服装からそのどちらでもなさそうであった。 学院に関係のない一般のお客がぶらっと入ることはない。 悠然と座わり、手に持った本を開いている。 彼はオーダーを待っていると日々希は思った。 ここは、セフルサービスのカフェである。 日々希はいつまでも待ちそうな気配のそのお客に声をかけてあげようと思った。 近付くと、彼は日本人でもなかった。 浅黒い肌に彫りの深いはっきりした顔だち。日焼ではなく、地肌が浅黒い。真っ黒な短髪に強く引き結んだ唇。 錐のように己の意志を貫き通すようなグリーンの鋭い眼差しが近付く日々希をまっすぐみていた。 日々希は不用意に声をかけようとしたことを後悔する。 外国人留学生は既に何人かいるが、この暑さをものともしない初めての客は、この二学期から入った留学生に違いなかった。 大和薫英には、王族に連なる高貴な者だった