実は、西野剛は三階の緋毛氈の上を歩くのはコレが初めてである。 階段から廊下を歩いて目にする景色は、自分たちの2階とは既に別世界だった。 真鍮の豹のドアノッカーを叩いた。 加減が全くわからない。強くひびきすぎたかもしれなかった。 中から和寿の返事がある。 「はいれ。扉は開いている」 踏み入れた四天王の部屋は、想像以上に大きい。 L字型ソファにガラステーブル。ベランダへの大きな扉窓に、小さな洒落たカフェテーブル。 奥にはアイアン製の蔦のはわせた透かし模様のある間仕切りがあり、その奥には天幕つきのベッドがある。 白亜と碧の南フランスをイメージした建物にふさわしい、ホテルのスイートルームのようだった。 あわてて、ベッドから目をそらした。 ベットと逆側のミニキッチンと応接室を区切るカウンターテーブル見た。 その内側で、日々希と和寿が横に並んでキャベツを刻んでいた。 「ダメだよもっと細かく千切りにして!大きいと、もさもさして美味しくないんだから!」 ビロンと日々希は和寿の刻んだ大きな固まりをつまみ、自分のもつまんで、和寿の前で比べてみせている。 「くそっ。どうせくったら同じだろ?料理包丁なんて使ったことがないんだよ」 「一人では二人でするより倍以上かかるんだから、和寿お願い。すぐにさくさく上手になるから!」 指摘されてむっとした和寿を日々希はなだめにかかる。 なだめられて、すぐに和寿の機嫌はよくなる。 今度は先程より慎重に刻んでいく。 「そうそう、さすが!上手~」 「これぐらい、俺にかかればあっという間だ!」 傲慢で怜悧な北条和寿が、見ているのが恥ずかしくなるほど田舎者の日々希の手の平でいいように転がされている。 もう一人、コンロ台の下からしゃがみこんでいた一人がいる。 北見だ。 彼のフルネームを剛は知らない。 その手にはフライパンを