(36)①賢すぎる男

3839 Words

金沢太一は体育全般が壊滅的に不得意ということ以外は、極めてよい成績である。 前回の全国統一試験をすれば不動の一番である。 家は決して裕福ではない。金沢太一は、頭の良い兄弟の中でもとりわけ良かった。 親が彼の将来を期待して、自分をこのべらぼうに学費や必要経費が高い大和薫英学院に、両親は借金をしてまでも入れてくれた。 大和薫英学院は日本だけでなく世界的な経済基盤や社会インフラを担う企業や政治家の子息子女が集うという名門学校なら太一の将来のためになるだろうとの親心からだった。 全寮制の中等部に入学して早々、自分が場違いなところに来てしまったことに気が付いた。 美化や綱紀粛正に力を入れる東郷派、頭脳明晰で利発な者たちが集まる北条派、芸能や裏社会に通じている北条派、彼らがいるだけで場がどこかの寺にでも修行に来たかと思うこともある不思議な集団の南野派。 それらの派閥に入らない生徒も多いが、それぞれの派閥は明確に固まり、学院で幅を利かせていた。 そして、彼らは派閥は敵対しているというわけではないが、水と油が弾き合うように学院内で混ざり合うことはなかった。 金沢太一は悟る。 意味があるのは、この学院の中で幅を利かせている派閥のいずれかに認められ、仲間に引き入れられること。自分はパンピーではないということを周知させ、パンピーから一目置かれることが大事なのだ。 ではどこに入るべきか。 金沢太一は西条を外し南野を外す。 北条か東郷かというところだった。 だが、自分の頭脳だけでは北条も東郷も足りないようである。 彼らはある種の美を競っているようにも見えた。 西条派の肉体美とその気迫や余裕からくる強さは美に通じるし、東郷派の規律に対する厳しさや武骨さはこの学院の土台を支えているのは自分たちだという矜持の美を感じる。 南野派は、表だって争うことはなく静かな水面のような

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