(78)誰も信用してはならない。

3368 Words

大和薫英には、競泳用と競技用のふたつのプールがある。 競泳用は12レーンほどあり一般用に3レーンほどが空けてあり、あとは競泳のクラブ活動に使われている。 競技は飛込み台やシンクロナイズの練習などできる深いプールで、どちらも多くの学生が真剣に取り組んでいるようだった。 どちらもそれらは年間を通して一定の温度に保たれ、8時まで解放されている。 クラブには所属していない西条弓弦が普段使っているのは一般レーンではある。 週3回は泳ぎにくる彼は、水泳クラブのメンバーのトレーニングメニューをこなす。 日々希たちが競泳場に着いたときには、西条が目に飛び込んできた。 いくつも傷のある迫力のある体を堂々とさらしている。 その横にアジールが競泳用の黒いぴったりしたパンツをはく。 アジールは骨太の骨格の、褐色の肌である。 彼らだけではなくて和寿も東郷進一郎も、西山雄治も南野派の男子も、いつもアジールに従える学友たちは着替えて泳ぎにつきあうようである。 日々希がこの競泳場に入ったのは初めてだった。 多くの見物人たちが即席に並べられた椅子の後ろ側に陣取り、豪華メンバーの水着姿をみようと立ち見をしていた。 日々希はザイードを追ってきたのだが、彼をさがすよりも前に、絢爛な四天王と異国の王子の水泳着姿を眺めてしまった。剛も川嶋もわおっと目を凝らした。 北見だけ興味なさそうに彼らを見る。 「なんでプールサイド内に見物客を入れているんだ」 彼らを眺めながらも立ち見の人だかりに北見は文句を言う。 アジールの黒服の護衛も、観客に鋭い目をやっていた。 「和寿は泳げるの?」 「和寿さまに不得意なことはない」 北見が自慢げに言った通り、見物客の視線など気にもせずおもむろに泳ぎだした和寿、はきれいなフォームで行きはクロール、帰りは平泳ぎで優雅に泳ぐ。 イルカのようにきれいな弧を描

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