あの夜のこと、教えてほしい。 日々希は言おうとした。 地面に組伏せられているザイードの顔のすぐ横に片膝をつく。 ザイードと日々希はどうしてサーバントを解任されたのか、そしてなぜにアジールの部屋で和寿とあられもなくまぐわうことになっていたのか。 ザイードは知っているはずだった。 特製スパイスホットミルクを飲ませたザイード。 今ならわかる。剛が言ったように何かを飲まされたのだ。 ザイードはハーブの香りを服からふわりと漂わせている。 あの夜も何かハーブを焚いていた。 だが、あの夜のことを追及するよりも、今まさに遁走したことの方が、なにか緊迫した事態が迫っていると、日々希の直感が告げていた。 「アジール王子と接近禁止が出されているんでしょう?それなのにどうしてあの場にいたんだ?なにかやましいことがあるの?あのとき、僕に何かを飲ませたように、もしかしてあそこで何かしていたの?」 ザイードは答えられるように、剛にグイッと体を引き起こされた。 小柄な体の剛に捕まれている格好だが、振りほどけない。 そこへ北見が合流する。 北見は手際よくザイード自身のジャケットでそのまま後手に腕を拘束する。 ザイードはなされるがままだったが憎々しげに日々希を見た。 日々希は気圧されそうになる。 そんな憎悪に満ちた目で見られたことがなかった。 「お前が全部悪いんだろ!お膳立てして王子に捧げてやったのに、お前が王子を満足されられなかったから俺がとばっちりをくったんだ。王子は俺を見限った。それだけでなく蛇蝎のように嫌われた!お前は王子の寵愛を受けるチャンスを、わたしは取り入る千載一遇のチャンスを永遠に失った!」 「寵愛なんて欲しくない。あの夜、僕にわたしたスパイスホットミルクに何を混ぜたんだ」 日々希には王子と絡んだ記憶はない。 もしかして記憶がないだけかもしれないと思う