(59)祈りの時間

4777 Words

境内の土俵の縄は手際よく回収されそのまま別の舞台と作り直されていた。 伝統楽器の奏者による演奏会や、学校の音楽隊の発表会、藍染の浴衣を着た地元の婦人会の夏の踊りなどが入れ替わり立ち代わり、賑やかに祭りの最終日を盛り上げる。 巫女が決まり、ムラの女たちも戻ってきていた。 夏祭りは三日めがクライマックスである。境内にも例年遠方より訪れる行商がいつもの彼らの場所にテントを連ねて、骨董品や盆栽、地元婦人会の自然派手づくり石鹸など、参道の屋台とはまた違って堀だしものや手づくりの品を広げる場となる。 喧嘩勝負や巫女などまったく関心はないけれど、この彫り出し物は見てみたいと幅広く年代を集めていた。 「次の出し物は、中学の有志による漫才……」 合間にマイクのアナウンスが入る。 それを聞きながら、日々希は神社の裏手の岩場の温泉で禊である。 巫媼(ばば)に聞くと、特に作法はないようで、いろいろお疲れだろうからゆっくり浸かって温まって、今のうちに体を休めてくだしゃいよ、とのことなので遠慮なくのんびりつかっている。 数日前まで鬱蒼としげっていた熊笹は、きれいに刈られていた。 神殿の奥の部屋に通じる小道に白い幕も吊り下げられていて、完全に外界と隔絶された空間となっていた。 神社境内の本物の松明とは違い、裏手の温泉の周辺は、人感ライトがそこかしこに立てられていて、安全面も配慮されているようだった。 人々の笑い騒ぐ喧騒と、白い幕が張られた向こう側の闇からは、虫の音がかすかに聞こえる。 日々希がいるところは丁度、人と神の領域との境目のように感じられて、ぞくりとくる。 湯からあがると、篭にタオルと白い襦袢が置かれていた。 婆も子供もいないの襦袢を腰ひもで結び、ひとりで白幕の道をたどって戻る。 部屋に戻れば、ばばが白い着物を用意していて、気安い着流しに着付けが終わると、さらに神

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