和寿は立ち上がり、背丈ほどもあるバナナやモンステラ、ストレリチアの間を抜けていく。 その時には、ポニーテールの女も席に戻っていた。 「ここ、いい?」 和寿は若いカップルのテーブルの前に立つ。 大きなパフェの器が片付けられもせず残っていて、それを二人で仲良く食べたんだろうかとよぎる。 二人の顔が同時に上がった。 顔をあげた日々希の顔は、目を激しくこすったのか目元が腫れている。 それが泣いていたのだとわかるのに、タイムラグ。 日々希が泣かなければならない状況がわからず、怒りに当惑が加った。 すぐさま警戒した日々希の連れの女は、和寿の顔からつま先までわざとらしく値踏みする。 挑発的な顔つきになった。 「今、わたしたち取り込んでいるんだけど、申し訳ないけど、他にも席があるでしょう?」 彼女の目が背後の誰かを探すかのように泳いだ。 元より隣の日々希には目の前の男を追い払うことなど何も期待していない様子である。 残念ながら頼れる男としてみられていないのではないかとよぎる。 だが、女の声に含まれるどこか音楽的な響きのある伸びやかさが、和寿の怒りに火を注いだ。 「和寿、どうしてここに?彼女は樹里亜。ジュリアって知ってる?歌手の……」 腰を浮かし、和寿のために席を空ける。 その目元が緩み、隣の女と違ってほわっとした笑顔が浮かんでいる。 日々希は二人の間の緊張にも気が付いた様子がない。 その笑顔に二人の間を邪魔をして、ばつの悪い思いをさせてやろうという気概が挫かれる。 和寿は座った。 「どうしてここにいるのか聞きたいのは、俺の方なんだけど?」 「友達と新しいカフェに来てみたいと思っただけだよ。和寿こそどうして?」 「俺は、毎週この近くに習い事があってきているから、そのついで」 「習い事?なんの?語学なら先生がいるし、ZOOMやリモートレッスンと