その6、アジール王子SIDE 

3035 Words

アジール王子は王位継承争いに辟易していた。 どれだけ王座に座るつもりはないと言っても、アジールに集まる権力欲に目が眩んだものたちは担ぎ上げようと画策する。その不穏な気配に、兄王子擁立派が騒ぎだしていた。 5つ違いの異母兄弟が一緒に過ごせたのはもう何年も前のことである。 あの頃は毎晩アジールは宮殿の自室を抜け出して、兄の書斎のような部屋に忍び込む。 兄はいつも待っていてくれて、優しく頭を撫でてくれた。 「わたしの国作りに力を貸してくれるかい?アジール?」 「もちろん!ファザールお兄さま!」 そういって、兄の横で有能な部下として采配する自分を思い描いたものだった。 最近では慇懃に挨拶を交わすぐらいしか、アジールは兄と交流ができていない。 幼い頃の気持ちは変わらない。 そして緊張感が危険なほど高まる。 国内が分裂し、一触即発のいつ起こってもおかしくない騒動から身を隠すように出国しなければならなかった。 だから、遠い東の島国の大和薫英に来たとき、アジール王子は、自分の意思と関係なく兄弟の対立構造を作り上げようとする圧力に、やる場のない憤りに押し潰されそうであった。 空港で見る日本人はヘラヘラと平和を享受している馬鹿者のように思えた。 女は生まれながらの髪を金や茶やグレーに変え、ヘソまで肌を露出し、いたずらに周囲を誘惑する。 彼らは西洋かぶれだった。自国の歴史や風土が育んだ文化への誇り、根本的に自分自身への誇りを失っているように思えた。 だから、アジールはこの大和薫英の留学に関して1ミリも期待などしていなかった。日本で屈指の子息子女の集まる学校であると聞いていても、媚を売り己に取り入ろうとするものたちの群れとの、学業という名ばかりの、苦痛の日々を過ごさなければならないとしか思っていなかった。 アジールはすり寄ってくるものたちに辟易していた。 だから

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