ほどなくしてアジールは和寿と談笑しながら306号室に戻ってくる。 アジールはソファに座る日々希を見るや眉を上げ頬を緩めた。 部屋の様子をみて対象的に和寿は不快気に顔をしかめた。 「ただのマッサージにこれはやりすぎではないか?火事になるぞ」 ベッドの周りのろうそくの演出を一瞥した和寿は、ザイードに抗議している。 やはり普通の感覚ではやりすぎ感がある。 「リラックスしてからだの緊張をほぐすのが目的なので、そのための演出に過剰はありません。ひびきさんのマッサージによる効果があがりますから」 ザイードに譲るつもりはなさそうである。 和寿はドライヤーを持っていた。日々希の隣にどさりと腰を落としたアジールの濡れた髪に、ソファの後ろにまわって風を当て始めた。 アジールは和寿のそつのない手際よさを気に入っている。 和寿は照れもせず淡々とこなす。 個室の二人の様子に緊張感も違和感もなかった。 これがまるで夜ごとの日課のように。 日々希の胸がチクリと痛んだ。 和寿が自分以外に興味を向ける時に感じる痛み、自分の中から生まれるかすかではあるが嫉妬の存在である。 見方を変えればその馴れたようすは美容師の仕上げのようであるので、仕事だと思い込もうとした。 実際、サーバントというものは、仕事なのだ。 ザイードはキッチンで先ほど準備していたドリンクを、日々希とアジールに手渡した。 鼻先をかすめた湯気の香りが違っている。 同じ白濁したミルクベースのものでも中身が違うことに日々希は気が付いた。 「ザイード!それは何だ?嗅いだことのない、胸糞悪いにおいだ」 和寿は日々希の手の中のスパイスホットミルクの香りに鼻をひくつかせた。 ザイードは和寿の言いように眉をひそめた。 だが顔の厳しさでいえば、和寿の方の顔が険悪である。 ザイードは和寿をみてたじろぐが、言い訳するよう