(23)事情聴取

3174 Words

日々希は部屋に呼ばれた。 用意された椅子の横に和寿が立つ。 コの字の型の机の向こうに座る面々には、言い知れぬ迫力と視線の強さを感じ、足がすくんだ。 理事たちと話をするのも初めてである。 大人数人前恐怖症の発作が、今まさに出てこようとしていた。 急に喉が渇き、息が苦しくなる。 「俺がいてやる」 和寿が日々希にいう。 和寿がいてくれる。 ひとりではないと思うと、強烈な安心感を感じると同時に、和寿の自分を思いやる気持ちを感じる。 お前を守ってやる、とその目は言っていた。 ああ、この自信満々な北条和寿が好きだ。 日々希に突如和寿への想いが溢れる。 強張っていた全身の緊張が溶け、我知らず固く閉められていた喉が開いていく。 知らず食いしばっていた奥歯に気が付いて力を抜いた。 日々希は呼吸をしていなかったことに気がつき、あわてて息を吸った。 まずは、彼らの前で昨日のことを話さなければならないのだ。 「座りなさい」 部屋から和寿と同様に椅子の横に立つのをみると、東郷理事は声をかけ、日々希と和寿は座った。 再び始まる。 今度は日々希の番だった。 和寿は日々希の横で無言で聞く。 日々希は自己紹介から求められていた。 出身地、出身中学、高校からの入学であること。ムーンバックスカフェでは、対人恐怖症の克服を兼ねて、またバイトもしてみたかったので、始めたこと。 稲岡先輩はバイトを始めてから付きっきりで面倒を見てくれたこと。 当日違和感を感じたことは、初来店で連れ立ってきた二人の男が、別々の席にすわったこと。稲岡先輩自らが最初に教えてくれた仕事道具は定位置に戻すことを、先輩が守らなかったこと。 「その道具がナイフだったので、稲岡先輩を探したら、初めての客の二人に何かを渡していて、それがナイフでした。ひとりが西条さんを狙っていたから、警告をしました。以

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